静原スズカのまったりブログをご覧いただきありがとうございます。
本日は、現在でも多くの人に愛されている作家 向田邦子さんの短編小説集「思い出トランプ」のあらすじと感想をご紹介します。
この「思い出トランプ」は、何といっても1980(昭和55)年直木賞受賞作品「かわうそ」、「犬小屋」、「花の名前」が収録されています。
向田邦子さんの、テレビドラマで培われた、読み手の想像力をかきたてる文章力を存分に楽しむことができます。
※ネタバレがありますので、お読みの際はご注意ください。
今回の記事では、前半に掲載している7つのお話
- かわうそ
- だらだら坂
- はめ殺し窓
- 三枚肉
- マンハッタン
- 犬小屋
- 男眉
ご紹介します。
本の後半のお話紹介(「大根の月」、「りんごの皮」、「酸っぱい家族」、「耳」、「花の名前」、「ダウト」)はこちらです。
ぜひご覧ください。
よろしくお願いします。
作品概要とおおまかな内容
作品名:思い出トランプ
著者:向田邦子
発行所:株式会社新潮社
発行年:1983(昭和58)年5月25日発行
小説新潮の五十五年二月号から五十六年二月号の1年間で掲載された短編小説が収められています。
電子書籍もあります。
全部で13つのお話が収録されています。
本のタイトルの由来はトランプのカードが13枚あるので、それにちなんでいるそうです。
トランプを繰ることと、色々なお話が出てくるのとをかけていて、ネーミングセンスがロマンチックですね。
この連載中に、「花の名前」、「かわうそ」、「犬小屋」の3作品が第83回(1980年上半期)直木賞を受賞されます。
全てのお話が一見、何気ない日常を送る登場人物です。
しかし、みんな実は心の中に、後ろめたい秘めた感情や思い出を持っています。
タイトルは最初に見たら「(どういう意味だろう?」と思いますが、読み進めると「そういうことか~」と謎解きみたいになります。
登場する人々、なかなか複雑な関係で、ドロドロとしています。
個人的にこういうドロドロ系は苦手ですが、向田邦子さんの作品だからこそ読めてしまいます。
芯には「家族愛」というものがテーマになっているなと、読んでいるうちに感じました。
ドラマ脚本家でもあるので、文章が頭の中で映像化されやすいです。
1つのお話は20ページ前後で、短いですが内容が濃くて「このセリフの真意はどういう意味なのかな?」と頭を使います。
どのお話も印象深いですが、13つのお話の中で特に私はが印象に残ったのは、「犬小屋」と「大根の月」です。
かわうそ
直木賞受賞作品です。
宅次の年下の妻の厚子は、お茶目な一面もあってかわいらしい妻だが、実はたいへん恐ろしい妻というところを描いたお話です。
厚子の姿は、宅次にとって若々しくも見えます。
しかし、かわうそのように可愛らしいけども残酷な一面をも見せつけられます。
不幸までもが、自分自身を魅力的に見せる人って、案外周囲にもいるものだなと思いました。
また、亡くなった娘の星江のことを、宅次のひとり娘と書いてあるところが印象に残りました。
もはや厚子は親じゃないも同然だな…と感じさせます。
だらだら坂
主人公の庄治と、庄治の経営する会社の面接時に“知り合った女”、トミ子とのお話です。
トミ子は、庄治から住居も生活費も保証されて、経済的には不自由ない暮らしをしているが、隣りの部屋の中マダムの仕事の手伝いをしたり、容姿までも変えてしまいます。
口数が少ないトミ子の主張「なにもすることがないから」が、その全てを語っています。
トミ子は一人の女性として、社会の中で自立して働きたい、という強さが伝わってきました。
はめ殺し窓
美しい母親のタカを引け目に思って生きてきた男、江口のお話です。
開くことの出来ないガラス窓のことですが、江口の母に対する思い出を、封じ込めている暗示なのかなと思いました。
過ちをしてしまった母のことを、身体も弱くて頼りない父が取った行動が印象的です。
母とは正反対の女性と結婚するが、生まれた娘が母親のタカに似てしまいます。
隔世遺伝の凄まじさ発揮ですね。
結局、母親だけでなく娘、そして信頼を寄せている妻と周囲の女性に振り回されている江口で、主人公の弱さや愛情を感じました。
周囲の女性のほうが上手なのか、それともお互い様なのか。色々と考えさせられるお話です。
三枚肉
話が前半と後半で大きく分かれていて、主人公の半沢という男の部下 波津子の容姿や仕草が細かく描かれています。
読み手にまでも、ドキドキするほど波津子の魅力が伝わってきました。
波津子の結婚式の帰り際に、妻の幹子の言葉がグサッときます。
やはり相手の方が何でもお見通しで、上手なのかなと、先ほどのはめ殺し窓と少し似ているところを感じました。
後半は旧友の多門が訪ねてきます。この半沢を多門、二人の間に、幹子という女性の存在感が強いということが良く伝わります。
波津子と幹子が上手くリンクしていくところが面白かったです。
マンハッタン
終始、「少し情けないなぁ」と思わせる男、睦男が近所にオープンしたバー「マンハッタン」に過剰な期待を寄せるお話です。
しかし、ここに登場するママの名前が書かれていないので、実は名前を知らなかったのか(・・? 期待とは裏腹に睦男とママの関係性の薄さがわかりました。
最後に、睦男の父親が登場するところがとても不気味です。
犬小屋
こちらも直木賞受賞作品です。
僕が印象に残っているお話のうちの一つです!!
買い物帰りの妊婦達子が、偶然電車内で一時期交流のあったカッちゃんとその家族を見かけます。そこから回想していくお話です。
女性側の達子から見れば、自分に惚れている姿が気味の悪い人に見えるカッちゃん…
男性側のカッちゃんから見れば、達子のことを好きなのに拒否をされてしまう…
どちらも辛いですし、どちら側から見ても同情、共感してしまいました。
カッちゃんはどれだけ想いが強かったんだよ…と思いますが、やはりカッちゃんからすれば切実ですね…。
達子は、思わせぶりな態度を一切とっていないので、なにも悪くないなぁ… 余計にどちらもかわいそうだなと思いました。
最後の描写では、世帯じみたカッちゃんが描かれていますが、彼の背伸びして無理をしているところは何も変わっていませんでした。
自分と相手が、どちらが幸せなのか?考えさせられました。
男眉
たくましい眉毛を持つ(たぶん)不美人の姉、麻と優しい形をした眉毛を持つ(おそらく)美人の妹との話です。
全て麻の視点から書かれています。
麻の夫と妹の関係が不透明で、読んでいて少しモヤモヤしました。
私はこの麻の持つ勘繰りは、おそらく事実とは違い気のせいかなと思いました。
妹の容姿、生き方をうらやましいと思っているから、妹のような優しい形の眉になりたいと思っているところから来ている感情なのでしょう。
ちなみに、私の眉もどちらかと言えば男眉のほうなので、麻の気持ちには共感できます。(笑)
次回へ続きます
本日は、向田邦子さんの短編小説集「思い出トランプ」の作品紹介と、13つのお話のうち前半7つのあらすじと感想を紹介させていただきました。
次回の記事では、後半の6つのご紹介をしていきます。(^^♪
続きが気になった方は、また読んでいただければ嬉しいです。
また、最も有名なエッセイ「父の詫び状」の作品と感想の紹介を書いた記事もあります。
よろしければご覧ください!(^^)!
それでは、本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
また、向田邦子さんの「阿修羅のごとく」の作品紹介と感想も書かせていただきました。
そちらもよかったらご覧ください。
終
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